「たーいちょ、呑みましょ?」


お互いに、


三日月が美しい晩の護廷十三隊十番隊隊舎。
その一番奥まった所にある隊首室に、二番目に奥まった部屋に住んでいる副隊長が現れた。
右手に一升瓶、左手にお猪口と湯飲みを一つずつ持って。


「んなでかくて高い良い酒どこで手に入れたんだよ」
「あら、これが高いってご存知なんですね」
「当たり前だろ、酔ったお前にいい銘柄の名前だの値段だのうるさく言われてりゃ、嫌でも覚える」
“あら、あたしそんなことしてませんよー”と彼女は笑いながら部屋に入ってくる。
それに対し、この部屋の主―十番隊隊長は“ったく”とため息をついた。
「今日は忙しかったから、疲れちゃいましたよねー」
ごく自然に彼にお猪口を持たせ、持参した酒を注ぎながらそう言う。
「疲れたのは俺だけだ。お前、面倒なのは全部俺に寄越して楽してただろーが」
彼はそう反論してから、注がれた酒を一気に呷る。
「どう?美味しいでしょ」
「...あぁ、うまい」
「これ、前、隊長が下さったものですよ」
「そうだったか?」
「やっぱり忘れてらしたんですね、さっきの反応からしてそうかなーとは思いましたけど」
そう言われて考えてみると、これは確か隊長就任時に五番隊隊長藍染惣右介に就任祝いとしてもらったものだ。
だが当時自分はあまり酒が呑めなかったので、酒好きだと聞いていた乱菊に贈ったのだ。
「今思い出した。そんな前のまだ持ってたのかよ」
「こんないいお酒、大事にしなきゃもったいないし。
隊長と作り上げていく十番隊が良い隊になったら呑もう、って決めてたんです」



『なんでうちの隊にばっかり回ってくるのよー!』
『うちの隊員は真面目な良い奴らだからな、仕方ねぇよ』
『まあ、副隊長が素晴らしいと良い隊になるんですね。なら仕方ないわ』
『それを言うなら隊長が、だろーが』
そんな言い合いをしたのは確か今日の昼時。
次から次へと回ってくる書類やら討伐命令やらを捌いていて定時に昼休憩に入れなかった。
尤も、話しながらもものすごいスピードで仕事をこなしていったおかげで、その後しばらくして二人揃って食堂に行けたのだが。



「隊長が素晴らしいから良い隊になるのは当然なんですけどねー」
昼とは正反対のことを言いながら持参した湯呑みに自分で酒を注いで呑む。
「良い隊には良いお酒が似合いますねー」
なんてよくわからないことまで言い出した。
「今日、書類を九番隊に持ってった時にですね、『最近うち仕事多いんですよね』って愚痴ってたら、
東仙隊長に『十番隊は優秀だからな、皆信頼して仕事を回すんだろう』
ってお言葉をかけていただいて、誇らしくなってしまって。認められるって嬉しいですよね」
乱菊はふふふ、っと笑いながら冬獅郎のお猪口に酒を注ぐ。
「そうだな」
嬉しいに、決まっている。

「良い隊には良い隊長が、良い隊長には良い副隊長がつきものなんですって」
「自分が良い副隊長だって言いたいんだろ」
「当たり前です。隊長だってそう思って下さるでしょ?」
「当たり前だ」
なんだかんだ、良くやってくれている。文句を言ったら罰があたる。
それに否定したら俺が良い隊長であることまで否定することになるじゃねーか。
「あ、そうそう」


「隊長、知ってます?良い女には良い男が、良い男には良い女がつきものなんですって」

彼女はそう言って、にっこりと笑う。月明かりをバックに、妖艶に。
自分は何に酔わされているのか。
「...なら俺はいい男だな」
「それならあたしはいい女だわ」
そして彼女を引き寄せる。



Postscript *-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


酔った勢いで。


(3/17/07 配布期間5/31/07まで)

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