“ボクのこと嫌いでもえぇから、今だけ...”
わかった、今だけなのね。
彼の言葉を素直に信じて受け入れてしまう。今だけ、で済むわけないって嫌と言うほどわかってるのに。

けれど抱きしめられるのは嫌じゃなかったから、抵抗しなかった。もちろん誰にでも、という訳じゃない。
こんな時だけまるで壊れ易い物を扱うように優しい、彼の触れ方が、好き、だった。
結局こいつに甘いのよね。
いや、甘えてるのかな。

――後ろから抱きしめるのは何かやましい事があるからだ、って、聞いた事があったな。

彼の腕に顔を埋め、温もりに包まれて、ぼんやりとそんな事を思った。












――ん...
眼を開けると目の前には見慣れた天井。確実に、十番隊執務室。それも昼間の。
――当たり前、か。
むくりと体を起こすと、自分が寝ていた長椅子よりも戸から見て奥にある机では、夢に出てきた幼馴染と同じ色の髪を持つ十番隊隊長も片肘を付き、その手に頭を凭れさせていた。

「―隊長?」
「―んあ?松本、起きたのか?」
「はい。隊長もお休みになっていたんですね」
「ああ...ダメだな、こうも仕事が回ってこなくて尚且つ天気が良いと、眠くなっちまう」
「そうですね」
「お前は別に天気も仕事も関係ないだろうが」
首と肩を回しながらも、ある意味見た目年齢相応の発言をする我らが隊長日番谷冬獅郎に同意したら、即座に突っ込まれた。
「う...そこは突かないで下さいよぅ」
狼狽する乱菊に、彼は小さく声を洩らして笑った。その笑顔を見て彼女はさっきまで見ていた夢を思い出す。

――あの人、ギンもいつも笑っていたけど、純粋に楽しそうに笑っているのをあまり見たことがなかった。いつも泣き笑いのような顔をしていた。

幼い自分はそれに気付かず、やっと気付いた頃には遠い人になっていた。

もっと話して欲しかった。
もっと聞いてあげれば良かった。



「―隊長」
不意に呼べば彼は視線だけを乱菊に向ける。
彼女はちょいちょいと手招きをして彼を呼び寄せた。
それに応じて近付いてきた彼に、彼女は満面の笑みを浮かべてこう言った。
「抱きしめて下さい」
「勤務時間中」
「えー」
冬獅郎に冷たくあしらわれると、乱菊は不満の意を大人気なく表す。
「嘘」

その言葉と同時に冬獅郎が乱菊を抱きしめると、彼女の耳には心地いいリズムを刻む、彼の心臓の音が届いた。

――あぁ、やっぱり

「隊長は正面から、なんですね」
「何の話だ?」
「いえ、何でもないです」

だから、安心するんだ。

「隊長、大好き」
だからこのまま変わらないで。どうか私を不安にさせる事無く。


Postscript *-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


新OPにきゅんと来た勢いで!やーあのギン乱っぷりはやばい。もへもへしました本当に。

個人的には後ろから、の方が好きなんですけども、やましい事があるから云々ってやつを考えるとちょっと怖い。
妙に信憑性ある気がするんだもの...!!
まぁ要はちゃんと正面で向き合えなきゃだめよ、って事なんですが。でも背中越しも良いんだよなぁ(何

時間軸については、はっきりわかるような書き方をしてませんが、ギンさん達が虚圏に行くよりも前のつもりです。一応瀞霊廷には居るけど...という。

私にしては珍しく、出来上がってる日乱+良識あるんだかないんだかよくわからないひっつんでお送りしました!!



(10/13/06)

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