「日番谷隊長いらっしゃいますか!?」
三席の隊員が慌しく俺を呼ぶ。
何事かと思い、中に入る許可を与えれば、息を切らしながら入ってきた。
「松本副隊長が三番隊に異動になるって本当ですか!?」
「...は?」




           何の保障も無い、そんな関係は



俺はそんな話聞いていない。
だが、そいつが云うには、今、隊はその噂で持ちきりらしい。
噂が流れるにはそれなりに理由があるはずだ。

「そんな事は無い。勝手な憶測を広めるな」
そう云うとそいつは小さく頭を下げ、部屋を出て行く。
...一体どういう事だよ。松本が異動だなんて。


確かに松本は優秀な副官だ。
他の隊から欲しがられても不思議では無い。
だけど、俺が隊長になってから副官はずっとあいつだったから、松本が居なくなるなんて考えた事も無かった。

しばらく放っておいたが、噂はとどまる事を知らず、
寧ろ、俺と喧嘩しただの、市丸とデキてるからだの、尾ひれがついているようだった。
松本は今日は非番だから、尚更だった。

書類を片付けながらも、松本の事が気になって
どっちにしろ今日は来ないのだ、気にしたって仕方が無いのだが。


翌日になっても噂はとどまらず、始業時刻が近づいてもどんどん広まっていく。
お前らはどんだけ松本に居て欲しいんだ、と呆れるほどだった。
いい加減五月蝿い、と一喝するまで隊員はその話で盛り上がっていた。

始業時刻の直前、松本が現れると、隊員達は安堵の色を顔に浮かべ、松本はそんな奴等の様子に戸惑っていた。


「隊長、皆どうしたんですか?なんか様子おかしいんですけど」
「...昨日お前が居なくて大変だったんだよ」
「あら、仕事滞っちゃいました?一応支障無いようにはしたんですけど」
“久しぶりの休みに仕事の心配なんてしたくなかったですから”と続けて呟く。
「仕事じゃねぇ、お前が三番隊に異動になるなんて噂が流れたから」
「へ?」
松本は訳が分からない、というような顔をする。
噂の主役であるこいつなら訳を知ってるだろう、と思ったのだが。
「何でそんな噂...あ、もしかして、あの事かな...」
「何の事だ?」
「気になりますか?」
そう云うと松本は何かカマをかけるような、そんな眼で俺を見る。
「...いや、別に」
「えーほんとは気になるくせに」
「じゃあ話せ」
たまに思う。こいつ本当に俺の事上司だと思ってんのか?
「はいはい。一昨日の帰り際、ギ...市丸隊長を探してる吉良に会ったんですよ。一昨日提出の書類を書いて下さらないらしくて。
で、その吉良と分かれた後、市丸隊長に会ったんで、吉良が血相変えて探してましたよ、って教えて差し上げたら、
『イヅルは嫌やなぁ、諦めが悪うて。十番副隊長さんが来てくれればええのに』って仰ったんですよ。
きっと誰かがそれを聞いててそんな噂流したんじゃないかと思いますよ」
「なんだよ...」
結局市丸が原因なのかよ。
そう思うとなんだか無性に腹が立つ。
あいつはどうも気に入らない。
「安心しましたか?」
「...別に」
素直に云うのも、なんだか悔しい。
「そーですか」


「...で、お前は市丸にそう云われてなんて答えたんだよ?」
「え?あたしですか?あたしは...」

“隊長はあたしが居ないと困るみたいですから”
松本はそう云ってから、あは、と冗談めかして笑う。

「何だよ、それ」
「事実じゃないですか?さっきみたいな噂も鎮められなくて」
云い返せない事が悔しい。
...確かに事実なのかもしれない。

「でも、あたしにしか出来ない事より、隊長にしか出来ない事の方がずっと多いですよ?」
「当たり前だ」
俺がそう云うと、松本は“じゃそんな隊長の為にあたしにしか出来ない仕事しますか”と云って机に向かって歩き出す。

「...お前は、ずっと俺の後ついて来れば良いんだよ」
俺がそう云うと松本は足を止め、俺の方を振り返りながら目を大きく見開いて
「...わかってますよ。どこまでも、付いて行きます」
笑って、そう、云った。



Postscript *-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

ちゃんと書いたよ日乱(と言えるのか)!!
2人は姉弟みたいな雰囲気だと思いますよ。出来の良い弟とマイペースなお姉さんって感じで。
仲良しな十番隊が大好きですv

要は、隊長してる日番谷くんと、彼よりも何枚も上手な乱菊さんが書きたかっただけなんですけどね、えぇ。



(初出8/19/05 修正2/26/06)

トップに戻る