「人間って醜いよね」





「どーしたんだいきなり」
そう問えば自転車を漕ぐ背中にトンッと心地好い重みがかかる。
「知ってる?自分の幸せを祈る事って他の誰かの不幸を祈る事なんだよ」
「そんな事ねぇだろ」
「ある」
自転車は目的地である一護の家に到着した。
「ホラ、降りろ」
「ん」
彼女は荷台から降りると「黒崎」という表札の少し横に寄り掛かった。
「だからね、世界の人皆が幸せなんて無理な話なの」
「じゃあ何か?オマエは世界平和を願うのは無理な話だっていうのか?」
「そこまでは言わないけど」
自転車を置いた一護は彼女の手を引いて、門の中に入る。
「今のこの世界で私達が豊かに暮らす為に、利用されて苦しんできた人も居る。今の幸せの下には沢山の不幸があるって」
呟くように言う彼女の手を、一護は強く握る。
「わかってるのに、今も充分幸せなのに、私はもっと幸せになりたいと思っちゃうんだ。
きっとその代わりに誰かが不幸になるってわかってるのに、わがままだよね」
掠れた言葉も一護は洩らさず聞き取ると、握った手とは逆の、左の手を彼女の後頭部にあて、そのまま引き寄せる。
何でいきなりそんな事を言うんだろう。一護は不思議に思ったが、こうせずにはいられなかった。
「幸せになりたいと思う事はわがままなんかじゃねぇよ。当然の感情だ」
「...ほんと?」
「おぅ、俺が保障する」
その言葉に彼女は“一護に保障されてもなぁ”とからかうように言ってから、“ありがとう”と笑顔を浮かべた。









「...どうしたのだ?」
いつものように虚を倒した帰り道。急に立ち止まった一護を不審に思ったルキアが声をかける。
「いや、何でも」


何で急に中学の時の事なんか。

あの後しばらくして、あいつは転校した。
離れていても平気なほど、俺達は大人になれなくて、かと言って強くもなくて。
いつのまにか、終わっていた。

...人の気持ちなんて変わるんだよな。
あんなに好きだったのに、今俺にはあいつよりも大事な女が居る。
思い出すことなんてなかったのに。


「本当か?今、ものすごく変な顔してるぞ?」
「うるせぇな」
そうか、こいつの事考えてたからか。


いつかは尸魂界に帰るルキア。
どんなに大事に思っていても、近い将来別れは必ず訪れる。
自分の欲望だけでこいつを縛ってはいけない。
それは必ずこいつを苦しめる事になるから。

――幸せになりたいと思う事はわがままなんかじゃねぇよ。
そう言っていたのに。

あの頃はあいつの幸せは俺にとっても幸せだった。
でも今は。


「まぁ良い。早く帰らぬと眠る時間がなくなるぞ?」
そう言って急かすルキアに適当な返事をして、歩き出す。
――俺はもう少しゆっくりしていたいんだけど。


そうか、こういう事だったんだ。
俺の願いが叶う時に、一番辛い思いをするのは目の前のこいつ。
そしてこいつの願いが叶う時、俺は辛くて悲しいんだろう。


俺とオマエの願いが一緒に叶うことなんて、ないんだろう。


Postscript *-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


いつ書いたんだろうコレ。という位過去の産物。発掘したのでUPしてみました。
イチルキというか一→ルキですね。しかも過去話も入るし...やっぱり異色だなぁ。
こういうのがお嫌いな方、ごめんなさい...

タイトルは私の敬愛する宇/多/田/ヒ/カ/ルさんの曲から。この曲の歌詞を思うともう...!!
幸せについてのあれやこれやは私なりの解釈なので気にしないで下さい、ハイ。
要はお互いの欲望を押し付けあっていては互いに幸せになる事は出来ない、
かと言って相手の幸せばかり考えていては結局自分も幸せになれないよ。という事でしょうか。うーん難しい。

読んで下さってありがとうございました!!


(8/16/06)

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