「なぁ、花火しねぇか?」
「は?」






9月中旬、まだ残暑の厳しい時期だとは言えるが、花火は少し季節外れだろう。
わかってはいても、一護にはルキアを花火に誘いたい理由があった。
「どうして...」
「オマエが向こうに連れてかれた後、花火大会があったんだよ。俺、オマエを連れてってやろうと思ってたんだけど、してやれなかったし...花火残ってたし。オマエが嫌じゃなければ、の話だけど」
それを聞いたルキアはきょとんとして、それから嬉しそうに口元をゆるめた。

「じゃあ行くか」
どこへ、と問う前にルキアは一護に手を引かれた。
そのまま玄関で一護の妹たちに見送られ、外に連れ出される。
しっかり繋がれた手を遊子たちに見られたことが気恥ずかしかったか、反面、いつもは絶対そんなことをしない一護のその行動が嬉しかった。



連れて行かれた先は近所の公園。一護と出会って間もない頃、二人で特訓をした場所でもある。
「さ、やるか」
ふいに放された手が、妙に寂しかった。
「ほらよ」
手持ち花火を渡されたルキアは怪訝そうな表情でそれを見つめる。
「...どうした」
そんなルキアを不審に思った一護が問うと、ルキアは「これは何だ?」と聞き返した。
「何、って、花火」
「これがか?」
一護は頷く。
「...花火というのは、どーんと空いっぱいに打ちあがって、それを観賞して楽しむものではないのか?」
あぁ・と一護は納得した。
尸魂界で花火と言えば、一護たちを瀞霊廷まで送ってくれた花火師・志波空鶴が扱うような、打ち上げ花火のことなのだろう。それしか知らないのにいきなり手持ち花火を渡されたら、不思議に思うのも当然だ。
「そんなでっかいの、手軽に出来ねーだろ。こっちにはこういうのもあるんだよ」
ほれ、見てろ・と言って一護は自分の手に持った花火の先に、ライターで火を点ける。するとたちまち花火の先から色とりどりの火が噴き出された。
「ほう...」
感嘆の声を洩らすルキアの反応に満足したのか、一護は少し口角を上げる。そして彼女の小さな手を掴んだ。
「オマエのにも点けてやるよ」
火を分けるようにして、ルキアの持つ花火の先にも火を点ける。
ルキアは何も応えなかったが、自分の花火に火が点いたのを見て、嬉しそうに笑った。
「きれいだな」
そう言ってルキアは微笑む。
――オマエの方がきれいだよ
と一護は思ったが、とても口には出せなかった。





最後に残った一束の線香花火を消化している間、二人は何も話さなかった。
そして最後の一本の火が、滴のように、落ちる。
「「あ」」
二人の声が重なった。
「終わっちまったな」
「あぁ...こんなに、暗かったんだな」
「え?」
そう言われて、一護は辺りを見回す。まだ日が長いと言っても、もうすっかり真っ暗だ。
「花火を見た後、いつも思う。花火が明るいからこそ、余計に暗く見えるんだなぁ・と」
――何を言わせているんだ、俺は。
破面の件で落ち込んでいた俺を元気付けてくれたルキアに何かお礼がしたくて誘ったのに。
あんな寂しそうな顔させたかったわけじゃないのに。
「本当はこんなに暗かったんだな。目先の明るさに囚われていただけで」
花火が大好きだったあの人を失った後の自分の世界。あの人があまりに眩しくて本当の辛さに気付かなかった。
「ルキア、」
一護は思わずルキアの手を引いて、自分の腕の中に引き込んだ。
「い、一護!?」
「暗いわけじゃねーぞ。ほら、あったかいだろ」
抵抗するルキアを無視して強く抱きしめる。するとルキアはおとなしくなった。
「周りが暗いのは、お前をいつでも誰かが抱きしめてるからだ。本当はあったかい光が満ちてる」
「一護...」
「なぁルキア」
ルキアは応えるように一護の服を掴んだ。
「ありがとう。俺は、オマエがまた俺のところに帰ってきてくれて...嬉しい」
――そんな、
   お礼を言うのは、私の方だ。
「帰ろう」
妙に素直に言葉が出てきてしまったことに、言ってから気恥ずかしくなってルキアを直視出来ず、誤魔化すようにそう言うと、ルキアは小さく頷いた。



                                       
はなび花火 そこに光を見る人と 闇を見る人いて並びおり



Postscript *-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


こんな時間無かったって知ってるけど。季節外れだって知ってるけど。
最近私の中でイチルキがキてるのです。王道コンビ万歳!
イチルキは基本プラトニックなんだけど、時々突然どっちかが大胆な行動に出て気まずくなってると良いです(何)
甘酸っぱい。そんな私は一護と同級生。今時高校生って案外甘酸っぱいです。


最後の短歌は俵/万/智さんの作品です。教科書に載ってたのです。これを見た瞬間パッと浮かんだのが海燕さんを想うルキアをそんな事を知らずに彼女を想うルキアでした。浮かんだのは教科書を最初に読んだ去年の3月。うふふー(怪


(02/24/07)

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