ずっとずっと見てた
















  俺の好きな女の子は、小学校からずーっと一緒の、もはや男として見てもらえてないんじゃないかってくらい近くにいる、幼なじみ。

  それで、その子は中学の時からずーっと、野球部の一つ上の先輩で投手の準さんのことがすき。

  で、その準さんは、これでもかってくらいモテモテなのに(そりゃもうムカつくくらい!!)

  告白されても「野球に集中したいから」の一言で一刀両断。

  だからは告白もせず、一番仲のいい後輩マネージャーをやりながら、野球に打ち込む準さんを見守って想い続けてきた。

  そして部活を引退した今準さんは、「勉強に集中したいから」の一言でやっぱり一刀両断しているらしい。

  準さんが引退したら、断る理由もなくなるから、もいい加減告白するのかな、と思いきやそんな噂を聞いたものだから、

  彼女はまた踏み出せずにいるみたいだ。



  『いい加減告白しちゃえばいいのに』

  だって何年片想いしてんだよ、と付け加えて指を折る。俺の右手の指が全部折られるのを見て、は眉間を寄せた。

  『だって、準さんは優しいから、振ったら気にしちゃうじゃん』

  受験生にそんな余計なこと考えさすの悪いよ、と吐き出すように呟いた。

  俺は、そうかなぁ、とか、っていうかなんで振られる前提なんだよ、とかぐちぐち言いながら、

  でもの瞳が揺れているのを見てしまったから、口をつぐみ、全ての指が折られた自分の右手に視線を動かした。


  ―あ、俺も5年だ。

  『準さんのこと、すきになっちゃった』

  そう言って紅い頬で微笑む幼なじみのことが、すきなのだ、と気付いてから。








  準さんの進学先が決まった。大学野球リーグに所属している大学への推薦が通ったらしい。


  「また、野球が出来るんだ」

  放課後の練習に励む俺たち現役野球部の休憩時間に合わせグラウンドにやってきた準さんは、そう言って心底嬉しそうに笑う。

  そんな準さんに祝いの言葉を贈るも、嬉しそうに見えた。



  じゃ、今日は報告だけだから。

  そう言ってグラウンドを去っていく準さんを、は見つめていた。

  制服の後ろ姿はグラウンドにはひどく不似合いだ。

  やっぱりグラウンドにいるあの人は、背番号1を背負ってないと。

  でも、俺がかつて和さんが背負っていた背番号2をもらっている今じゃ、もうそれは叶わない。

  は準さんの後ろ姿を見つめたまま、しばらく動かなかった。




  「なぁ、

  「なに?」

  「準さん、よかったよねェ」

  「うん、ほんと」

  「...告白しないの?」


  その日の帰り道、すっかり陽が落ちて、しっかり星まで出ている夜道。

  夏にはまだ練習をしていたような時間帯なのに、季節の移ろいは容赦ない。


  こんなに日が短くなるほど、俺たちは二人で居たのに、

  今じゃうつむいたの顔をうかがい見るには思いきりかがまなくてはいけなくなるほど伸びた俺の身長が、

  まだと同じくらいしかなくて、むしろの方がほんの少し高かったくらいの頃から、ずっと同じ時を過ごしてきたのに、


  俺の身長がぐんぐん伸びはじめた頃から、こんなにもでかくなった今でも、彼女は変わらず準さんを想い続けてる。


  「利央はいっつもそうやって、背中押してくれてたよね」

  なんにも、報われやしないのに、ばかじゃないの。

  「ありがとね。うれしかった」

  だけど一番ばかなのは、全部わかっててを想い続けてる俺だ。

  そんなこともわかってる。

  「だけどね」

  だから、そろそろ解放してほしいんだ。

  君がすきな人の隣で想い合える幸せをかみしめる笑顔を見せてよ。

  その時君の隣にいるのが俺じゃないのは悔しいけど、君の幸せを見るまで俺の気持ちは行き場がないんだ。

  「準さん、東京行っちゃうんだ」

  が笑ってれば、いいんだから。

  「タケさんから聞いてたから、私、知ってたんだ、準さんの志望校」

  それだけでよかったのに。

  「...ずるいよねぇ、居なくなっちゃうなんてさ」

  ...ずるいよ、またそうやって、心だけ持っていくの?

  「私のこと振っちゃったら、準さん帰って来づらくなっちゃうかなぁ?」

  近所だし、会っちゃうかもしれないもんね。

  そう言っては自分を嘲笑った。


  「...ごちゃごちゃ言ってないで、告白しなよ」

  「利、央...?」

  怒りなのかなんなのか、いつもよりだいぶ低い声ですごめば、の口元からは瞬時に笑みが消え、瞳には戸惑いの色が映る。

  「わかんないけど、多分上手くいくと思うし...

  第一、こんなにずっと準さんのこと好きだったのに、なんでまた言わないんだよ?」

  「だって...すきって言わないで、時々我慢すれば、

  またこれからもずーっと、準さんに一番かわいがってもらえる後輩マネージャーでいられるんだよ?」

  現状が心地よければ心地よいほど、一歩踏み出すのには勇気がいる。

  そんなの、俺にだってよくわかる。

  だけど、俺はもう、

  「がそんなんだったら、俺はどうすればいいわけ!?」

  「は?どういう意味?」

  もう待てない。

  「好きなんだ」





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阿部シリーズとは別視点で幼なじみを扱ってみました(私幼なじみ設定が好きすぎるのでこれからも多くなっていくと思いますがあしからず)
すごいとこで切っちゃった。続きそうな感じ?
どうしようかしら。
(初出09/04/30)







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