進みたい 進みたくない
01
「やっぱ、無理」
顔が見られない。
「このままじゃダメなのかよ?」
ダメだから、言ったんだよ。
「なぁ、」
「...ごめん、困らせて。
返事してくれて、ありがと。
...じゃあね」
「おい!」
隆也の手が、肩を掠めた。
勇気を出して、告白した、中学の卒業式の帰り道。
相手は幼稚園から一緒の幼なじみ。
結果は見事、玉砕。
だいたいなんだ、無理って。
...ちくしょうめ。
「どうだった?」
家に帰れば、突然現れたのは従兄。
「...なにが」
これから着替えて仲間内での打ち上げに向かわなくてはならない。正直そんな気分じゃないけどそういうわけにもいかない。
...でもこの従兄の相手をするよりはずっとマシな気がする。
ってゆか、泣きそうだから人と顔合わせたくない。
「告ったんじゃねーの?タカヤに」
「ってゆか何で居るのよ元希」
「質問に答えろよ先に」
「言いたくない時点で察してよ」
「は!?ウソだろ!? ...って、わりぃ」
「別にいいけど」
一つ歳上の従兄の元希は、私の幼なじみ兼好きな人(だった)隆也とはシニアでバッテリーを組んでいた。
隆也に『レギュラー取れたから見に来い!』って誘われて行った試合でマウンドに立っていたのが元希だった時は、そりゃもう驚いた。
隆也に聞いていた“速いけどノーコンで俺様なピッチャー”が元希だったってのもかなりの衝撃だった。
私が隆也のことが好きだって、最初に気付いたのも元希だった。っていうか、言わされた。
(親戚のくせに私が隆也の肩ばっかり持つから気に食わなかったらしい。
でもあんな怪我したり落ち込んだりしてる隆也見たら誰だって隆也の味方したくなるでしょ)
「お前、どうするんだ?高校一緒なんだろ?」
元希に促されてリビングに移動すると、労ってくれてるのか麦茶を入れてくれた
(我が家は元希のお父さんの実家でもあるわけなので、元希も昔からよく来るから勝手は知られてる)
「...うん。
あーあ、野球部のマネ、やりたかったんだけどなぁ」
「だからうちにしとけって言ったのに」
「だって進学校行きたかったんだもん」
「あ、そ」
「...ねぇ、もとにぃ」
親戚中で一番年下な私にだけ許された、この呼び方は、私が元希に甘えたい時にだけ発動する。
「ん?」
元希もそれをわかってるのか、少し声音が優しくなった。
「...そんなに幼なじみじゃなきゃだめなのかなぁ」
元希が入れてくれたお茶のグラスを軽く振ると、氷のぶつかるカラカラという音がした。
「アイツがガキなだけだろ」
自分の分のお茶を持った元希が、私の隣に座る。
「そうかな」
「そうだよ。だから、気にすんな」
元希はそう言って、私の頭を撫でる。
私はそれが心地よくて、元希の右肩にことんと頭を預けた。
(「結局なんで居るの?」)
(「お前が『卒業式の日に告ろうかな』とか言ってたから様子見に来たら、ばーちゃんが『出掛けるから留守番してて』って言うから」)
(「なるほど」)
(初出09/03/24)