駆って、飼って、勝手、
02
「おい、」
春、新学期。
「おい、なんで先に行ったんだよ」
新しい出会いの季節です。
「シカトすんなよ!」
...なんで私はクラス発表の掲示板の前でヘッドロックをかけられているのでしょう。
「...阿部、痛いよ」
そう声をかけると、隆也の動きが止まった。
「は?」
「だから痛い。放して」
「あぁ、ワリ...ってお前今何て言った?」
「...阿部」
「なんで」
「...私、もう幼なじみで居たくないって、言ったよね?」
そう言えば、それまでの戸惑いでいっぱいだった表情が一気にバツが悪そうな顔に変わる。
...春には全くふさわしくない。
なんとなく見ていられなくて、私は隆也から顔を逸らした。
「だから、阿部も呼び捨て禁止ね。呼び捨てにしたら返事しないから。
...ってゆか、話し掛けないで」
またも隆也の顔は一切見ずに、そう言うと、私は隆也から離れる。
クラスは残念ながら同じ。でも出席番号確実に一桁のあいつと、“は”行の私じゃそこそこ距離あるし、逃げおおせられるだろう。
教室に入り、自分の席を探す。
だいたい真ん中辺りの列の、後ろから2番目。
目の前には、ニット帽被った男の子。私服校だもんね。
そっと自分の席に座って、とりあえず携帯を取り出すと、元希から心配するメールが入っていたから、呼び捨て禁止令を出したことを報告する。
“でもね、同じクラスになっちゃ…”
「おい、」
声をかけられて携帯から顔を上げると、前の席の男の子と目が合った。
「やっと俺の周りに人来た。俺花井。
今まで周りの席まだ誰もこねーしこのクラスに元中いねーしで困ってたんだわ、今平気?」
「あ、うん!大丈夫。
私榛名!よろしくね」
ちょっと怖い話し掛け方とは相反して、普通にいい人そうだ。
「榛名ね、よろしく。
榛名はこのクラスに元中居るの?」
「うん。確か二人居るよー
案外偏るみたいだね」
誰?と聞かれたくなくて、別の方向に話を持っていく。
「へー、いいなー。それじゃあんまり緊張しねぇだろ?」
「いやいや、そんなことないって!ってゆか花井も緊張してるようには見えないけど」
「人と喋ってれば平気。
あ、なー榛名部活やる人?」
わ、作戦失敗。
「...んー、まだ決めてない」
野球部のマネやることしか考えてなかったけど、隆也の傍にはいられない。
あ、この流れは私も聞き返さなきゃいけないのか。でもこのニット帽の下の坊主を見るに…ねぇ?
「花「お前は野球部のマネージャーだろ」
花井にも問おうとした矢先、頭の上から降ってきた声と手に、私の声は遮られる。
「決めてないじゃねーだろが。お前が野球部マネ以外やるなんて俺が許さねぇ」
「何それ」
勝手過ぎる。
そりゃ、受験の時も今年からの野球部を一緒にやってこうね、って言ってたけど、あの時とは状況が違うんだから。
「えっと、花井?
わり、こいつちょっと借りてくから」
隆也は左手に持った“入学式次第”に載った名簿でおそらく私の前という理由で花井を判別して声をかけると、右手で私の左肩を掴んでそう言った。
(これ元希にやったら殺されるんだろなって唐突に思った。あ、まだメール返してない…)
(「なんなんだ、あいつ」)
(初出09/03/24)