試合前の緊張感
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今日は合宿最終日。三星戦だ。
昨夜のパネルトレーニングの結果、上手い具合に打順は並んだ。
だけど守りの要となるうちのバッテリー二人の間には、不穏な空気が漂っている。
二人っていうか、三橋くんが緊張しすぎてるのか...
投球練習の様子も、明らかにおかしい。
...と思ったら、三橋くんがどこかに走り去ってしまった。
逃げられた隆也は、さすがに焦ってる。
「...隆也?」
「、俺...「大丈夫。多分、隆也のせいじゃないと思うよ。
とりあえず、追いかけてあげなよ?」
ね?と念を押すようにして言い聞かせると、隆也はメットを取り、うなずいて、三橋くんの走って行った方に向かって行った。
三橋くんが怯えているのは、三星の仲間に、であって隆也にではない。
だけど、いくらなんでもあんなに怯えるなんて...
三橋くんみたいに頑張ってる人には、認めてくれてて、支え合えるいい仲間がいてもいいはずだ。
そうじゃなきゃ悲しすぎるよ。あんなに、頑張ってるのに。
私だって、隆也が、千代たちが、私の球を信じてくれるから思いっきり投げられてた。
みんなが信じてくれるから、自分を信じることが出来て、キャッチャーにボールを届けようと、投げることが出来たのだ。
仲間がもしいなかったら...なんて、考えただけで怖くなる。
それなのに、三橋くんは投げてきて、練習してきたんだな。あのコントロールを身につけられる程、懸命に。
マネージャーとして、支えてあげたいって思った。
西浦ベンチに向かうと、千代がいなかった。
「あれ、千代は?」
「篠岡なら、アナウンス頼まれたとかで、放送席行ったぞ。
スコアは榛名に頼むって」
私の呟きのような問いに、花井がきちんと答えてくれた。
「そっか、ありがとー!」
花井の眼を見てお礼を言えば、花井はなぜか驚いたような顔をした。
「...どうしたの?」
「あ、いや...なんでもない!」
明らかに変だと思ったけど、試合前の選手に詰問のような真似はしたくない。
気にせず、マネージャー業に集中することにした。
(笑った顔があまりにかわいくて、驚いてたなんて死んでも言えねー...)
(あいつは始めっから、阿部のことしか見てないんだから)
(初出09/04/19)