あの場所じゃなくても、一緒に戦える


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  合宿初日の夜です。


  「ふー、いい湯だったねー」

  「ほんとー」

  「それにしても、二人がチームメイトだったなんて、知らなかったよ」


  銭湯から帰って、女部屋でスキンケアしたり髪乾かしたりしながら、珍しく三人でお喋り(それにしても監督のブラには本気でびびった)


  「そうなんですよー。がエースで」

  「千代はだいたいいつもトップバッターだったね」

  「そうだったねー。

  あ、の球すごい速いんですよ!」

  「そんなことないよ!それにコントロール苦手だったし」



  血は争えない、とでも言うのか、従兄と同じく、私もどちらかというとスピード派だった。

  だから、三橋くんのあのコントロールの良さを目の当たりにした時、びっくりした。羨ましかった。



  「そうなんだ!一度見てみたいな」

  「え!?無理ですよー、引退してからろくに投げてませんもん!」

  もう自分がプレーヤーをやる気はなかったから、マネジとしての勉強(スコアの付け方とかルールとか見直したりテーピングの仕方覚えたり)以外はしていない。

  「そっかー、残念だなぁ。

  ちゃんがどんな球投げるのか、興味あったのに」

  「...なんかすみません」

  なんだか申し訳なくなってしまった。

  「え、そんな謝ることじゃないよー、気にしないで!

  あ、もしかしてさ、リトル時代は阿部くんとバッテリー組んでたの?」

  「あ、はい。初めの内だけですけど...

  って、監督よく覚えてましたね、私がリトルやってたこと」

  「覚えてるよー、選手もマネージャーも!

  千代ちゃんがショートやってたことも覚えてるよ!」

  「あ、ほんとですかー?

  なんだか嬉しい!」


  隆也の話になるのはなんとなく避けたくなって、話題を切り替えた。千代も上手く察知してくれて、乗ってくれる。


  「あ、それじゃ、ちゃんから見たキャッチャー阿部くんってどんな選手?」

  「え?私から見た、ですか?」

  「うん。どんなことでもいいよ。

  実はね、私これから阿部くんに三橋くんとのことで話に行こうと思ってて」

  ...やっぱり、監督から見てもあの二人はちょっと心配なんだ。


  「...理屈っぽい分、融通効かないとこもありますけど、

  誰よりも、勝ちたい、って思ってキャッチャーやってる奴ですよ。

  だから、三橋くんが勝ちたいって思ってることわかれば、大丈夫だと思います。

  三橋くん、なんだかんだ言って、勝ちたいから頑張ってる子ですよね?」

  「...そうだね。

  うん、よし、じゃあ言ってこようかな!二人ともありがとうね!」

  髪を乾かし終わった監督が、ドライヤーを置いて立ち上がる。

  「いえ、行ってらっしゃい!」

  行ってくるねーと手を振り部屋を出る監督を、二人で見送った。






  『、次の練習試合、俺ら出さしてもらえるって!』

  『ほんと!?』

  リトルで野球を始めて1年程経った頃のこと。

  『とりあえず2イニング使ってもらえて、その後は様子見つつ、ってコーチが言ってた』

  『そっかぁ!やったね!

  私、一生懸命投げるね!』

  『おう、勝とうな!』



  いつだって、試合の前には“勝とうな”って言ってくれてた。

  私が客席で見るようになってからは“勝つからな”って。






  「千代ー、」

  「ん?」

  「三星戦、勝とうね」

  「...うん、そうだね。

  私たちだって、みんなと一緒に戦うんだもんね」


  きっと今度はまた、“勝とうな”って言ってもらえる。








 (初出09/04/05)


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