そんなこと、俺が一番わかってンだよ
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「え?
何か忘れもの?」
今日から合宿です。
田島くんがとんでもない発言をした気がしますが、
なんとなく意味がわからないでもない私も、千代と一緒にとぼけとくことにしました。
「大丈夫?今ならコンビニ寄れないこともないけど」
「なんも!」
「平気!!」
...よし、無視!
「千代、合宿楽しみだね!」
「うん!」
「阿部」
志賀先生が隆也に声をかける。
どうやら三橋くんを介抱してやれ、とのことらしい。
...大丈夫かな?
隆也はあれで長男だから面倒見はいいんだけど、ちょっとはっきりしないような子は慣れてないとすごい嫌がる
(私でもヘコんでたりしてはっきりしないとキレられることがたまにある)
やっぱ心配だ!
「大丈夫?」
「」
「三橋くん、気持ち悪かったら窓の外とか見てた方がいいよ。眠れないんでしょ?」
私は二人の座る後部座席の一つ前の席から、後ろを向いて身を乗り出した。
「榛名、さん?」
「うん。マネージャーで飴とかエチケット袋とかも持ってきてるから、なんか欲しくなったら言ってね」
ずいぶん気分が悪そうだ。なんか可哀想になって、頭を撫でた。
「あ、ありがとう」
「いーえ、マネジだからね!
あ、阿部ー」
結局私はほとんど隆也とは呼ばなくなった。
隆也には怒られた。
『阿部、部活行こ?』
『は?』
『は?って、部活!』
『じゃなくて、『呼び方のことなら、文句言わせないからね』
軽く睨みを効かせて、言い返した。
『...なんでだよ』
隆也は眉間のシワを深くして、尋ねてきた。
『“何馴々しくしてんの?”って、もうどやされないように?』
『は?何それ?』
『中学の時ねー、阿部とのことで呼び出されてそうやって喧嘩売られたことあってさ』
『は!?ウソだろ!?』
『まぁいつもなんとか躱して逃げてたけどさ。もうそういうの面倒だし。
あ、別に阿部はいいよ、好きに呼んでくれて』
喧嘩売られても隆也の傍に居るためなら耐えられた。好きだから耐えられた。
でも、もう今は。
自分のことで私が呼び出しをくらっていたという事実に、少なからず申し訳なさを感じているのか、
隆也は私が“阿部”と呼ぶことについては何も言わない。
ただ、そのたびに少し顔をしかめる。
...ほら、今みたいに。
「...あんだよ」
「これ、一応渡しとくからヤバそうになったら開けたげてね」
ハイ、と言ってエチケット袋を渡す。隆也の返事を聞いて、私はもう一度三橋くんの頭を撫でてから席に戻った。
「あ、阿部、くん」
「...あんだよ」
「榛名さん、優し、いね」
「...知ってる」
(初出09/04/05)