気にしないでほしいような、気にしてほしいような、
04
「さて、と」
入学式も簡単なホームルームも終わり、部活体験やらなにやら(ここは部活が盛ん!)で、皆バラバラと教室を出始める。
鞄に配られたプリント等をしまい、隆也の方に目をやると、隆也もちょうど私に目を向けていたようで左手で“来い”と合図をされた。
「もう今日から行くんでしょ?」
一応入学から二週間くらいは仮入部期間だ。部活は自由参加だから、入らなくてもいいし、別に今日から行かなくてもいい。
(でも盛んなのでほとんどの人が早速行くみたい)
「おー、っつか俺春休みから来てた」
「え!嘘なんで言ってくれなかったの!?」
「メールも電話も全シカトしてたのはどこのどいつだ?」
そうでした...
「…ま、もういーけど。
監督に紹介してやるから、ついて来いよ」
「うん!」
途中、隆也は更衣室に寄って、練習着に着替える。
「私今日ジャージ持ってきてないけど、大丈夫かなぁ?」
「さすがに今日は大丈夫だろ。
それより、お前チャリある?」
「へ?ううん、無いけど…」
「じゃ、後ろ乗っけてやるよ」
「え?なんで?」
自転車置き場に到着し、隆也はずんずん歩いていく。
「校舎からグラウンドまで距離あんだよ。
それに、終わってからチャリ取りに戻んのもめんどくせェから、移動はチャリなの!」
他の自転車と引っ掛かっていたのか、話しながらその絡まりを解く。
エナメルを籠に投げ入れると、鍵を付けて、自転車を通路に出す。
「荷物入れるか?」
「ううん!それは平気だけど...」
「ん?おら、乗れよ」
...私、告白したよね?
で、振られたよね?
「...隆也って」
「あんだよ、早く乗れよ」
私は気付かれないように小さくため息をつくと、自転車の荷台に横座りして、隆也の腰に控えめに腕を回した。
...久々だな、隆也のチャリに乗っけてもらうの。
「もうちょいしっかり掴まれよな」
「え?わ、」
隆也はそう言うと、私の両手をしっかり組ませる。必然的に、密着度も上がる。
ほんと、こいつはもう...
なんにも、思わないんだろなぁ。
ちょっと泣きそうだ。
「おら、ついたぞ」
「...ん、ありがと」
「...どうした?」
顔を上げない私を不審に思ったのか、隆也が問うてくる。
「...なんでも、ない。
ほら、早く監督に紹介して!」
自分のせいだとかちっとも思わないんだなぁ、と思うと何だかバカらしくなって、私は笑顔を作ると顔を上げた。
「...おー、あっちだ」
瞬間、隆也がちょっと眉間に皺を寄せた気がした。
「監督、マネージャー連れて来ました!」
隆也が声をかけると、振り向くジャージ姿の髪の長い女の人。…わ、かわいい!しかも胸おっきい!
「は、はじめまして榛名です!よろしくお願いします!」
「はじめまして!監督やらせてもらってます百枝まりあです!よろしくね!
えっと、ちゃん、野球経験は?」
笑うともっとかわいい。しかも気さくだ。
「あ、小学生の時にはリトルに入ってました。中学では3年間ソフトボール部でした」
「そうなの!じゃあ安心ね!
早速だけど、ちゃん、皆の名簿作るから名前とクラス聞いてきてくれる?」
監督はプリントの挟まれたバインダーを渡しながらそう言う。
...初めてのお仕事!
私は無駄に感動しながらそれを受け取り部員の元に向かった。
(初出09/03/24)