幼い思い出
05
「それにしても、阿部くんが女の子連れて来るなんてびっくりしちゃったよ!」
「あー、あいつ俺の幼なじみなんスよ。野球好き度は半端ないし絶対戦力になりますよ」
「へー、そうなんだ!それは楽しみだなぁ。
あ、あの子も希望者かな?連れてくるね!」
「はい頼んます」
グラウンドの入り口に向かった監督とは逆に、俺はの所へと向かう。
―楽しそうな顔しやがって。何が俺がいるからマネージャーやらない、だ。
仕事を与えられたことが嬉しいのか、心からの笑顔を浮かべて部員に話し掛ける。俺はちょっと安心した。
今は栄口との再会を果たして楽しそうだ。
...よかった。
最後に見た、卒業式の日のは泣きそうで、しかもそんな顔をさせてしまったのが自分なのかと思うと心が痛くて仕方なかった。
でも突然過ぎだったし全くそう考えたことが無かったしで、あの時はあぁ言うしかなかったのだ。
あの後、気になっての家まで追い掛けたが、家の前に停まった一台の自転車を見つけたら、インターフォンを押すのもためらわれた。
...元希さん、だ。
一年前までならよく見ていた、青い自転車。それはどう見ても、の従兄で、去年まではバッテリーを組んでいた元希さんのものだ。
―お前さぁ、のこと好きなのか?
『...はぁ!?何言ってるんすか?』
試合があった日のミーティングの後。
ユニフォームから着替えていると、いつの間にか隣に現れた元希さんに、そんなことを聞かれたことがあった。
『なんだ、違うのか』
『そんなことあるわけないっすよ。大丈夫ですよー、心配しなくても元希さんの愛しの妹分を獲ろうなんて奴、ここには絶対居ませんから』
『ばっ、タカヤてめえ何言ってやがる!』
あの頃はむしろ元希さんの方が相当のことが好きそうに見えて、
元々俺が呼んだのに、チームメイトたちがに話し掛けようとすると牽制していた。さすがに俺に対して、はされなかったけど。
と元希さんが従兄妹同士だって聞いた時は俺も驚いた(当人同士が一番驚いてたけど)
苗字一緒だなーくらいに思ってたらまさかの血縁者、しかも親父さん同士が双子だとか(確かによく見りゃ似てなくもない)
でも一番驚いたのは、元希さんの前でのがいつもと違ったこと。
家の面する通りは違えど、ベランダと庭が面した所にあるうちとん家は、家族ぐるみの付き合いってやつで、それこそ小さい時は兄弟同然だった。
でも女の方が自我の発達が早いせいか、俺とじゃあの方が姉っていうか兄みたいなもんでどっちかっていうと主導権握られてて、
俺に弟が生まれてからはそれに余計に拍車がかかった。
“にいちゃん”になった俺と一緒に“ねぇちゃん”をやっていた。しかも俺の“姉”まで。
そんなが、元希さんの前では甘えてる。そりゃー元希さんは年上だし当たり前なんだけど、結構新鮮だった。
(最初に“もとにぃ”という呼び方を聞いた時は衝撃だった)
俺にはそんなに頼んねーくせに、と少し悔しく思ったのを覚えている。
もしかしたらそれぐらいの時期から意識はしていたのかもしれないけど、女として好きか、とかはほんとに全く考えたことなかった。
別に好きな人が出来たことが無いわけじゃねーけど、あいつが候補に挙がったことは一度も無かったのだ。
だから、あいつからの告白は青天の霹靂だった。
(初出09/03/24)