いちばんたいせつなおんなのこ
08
一つ年下の従妹は、しっかりしているようで少し抜けていて、目が離せない。
親戚中で一番年が近いし父親同士は双子だし家は近いしで、それこそ本当に妹のように思ってた。
こいつを守るのは俺だ、と勝手に思っていたガキの頃。
だけど最近は、幸せになって欲しいとか、思ってしまっている。
「え、!?」
シニアに入って数ヶ月。もうかなり慣れて、何度目かの試合を終えた後。
バッテリーを組んでいる後輩が女と喋っていると聞いたので、からかってやろうと思い様子を見に行ってみれば、
そこに居たのはしばらく会ってない従妹だった。
「あ、やっぱりもとにぃ!」
「は?」
笑顔で手を振るを見て、きょとんとするタカヤ他チームメイト。
「お前何で居んの!?」
「私隆也と幼なじみなんだよね。
で、試合見に来いって誘われたから来てみたの。
もーびっくりしちゃったよ、投げてるのもとにぃなんだもん」
「へー、そうだったのか」
「良かったね、やっぱもとにぃは野球やってるのが一番だよ」
さすがに親戚(しかも割と近くに住んでる)だから、俺がクサってた時も知ってる。リハビリに付き合ってくれたこともあったくらいだ。
俺は礼の代わりにの頭に手を乗せ、軽く撫でた。
「あのさ、知り合い?」
タカヤがに向けそう尋ねた。
「うん、イトコ」
「は!?マジで!?」
「おー、名字一緒だろ」
あの時のタカヤのアホみたいに驚いた顔は、そりゃもう傑作だった。
それからも数回、自分の休みと俺らの試合が被れば、は試合を見に来た。
一度だけの試合を見に行ったこともあった。2年でエース。従兄として誇らしかった。
「ねー元希、もうちょっと隆也に優しくしたげてよ。
あんなに痣作ってるの元希のせいなんだから!」
の家で、俺が買い損ねた野球雑誌を読んでいると、飲み物を持ってきてくれたはいきなりそんなことを言い出した。
「別にあいつ怖がってねーんだし、言いたいことは直接言ってくるし大丈夫だろ。
...つかお前いっつも身内の俺よりタカヤだよな」
「...そう、かな?」
「おー。なんだよ、俺はどうでもいいわけ?」
「そんなことないけど...」
「ん?なんだよ?」
「...なんでもない」
は俺の分の飲み物を俺の隣に置くと、自分の分を持ったまま俺に背を向けた。
言い掛けといて、やめるなよ。
「なぁ、もしかして、お前さ」
「?」
は首だけ俺の方に向け、少し傾げる。
「タカヤのこと好きなのか?」
返事がない。
「おい、」
顔を覗きこめば、真っ赤だ。
「マジで?」
確かめるように尋ねれば、はこくんと頷いた。
「マジかー、そっかー」
「...どうせ無理だって、思ってるんでしょ?」
「は!?んなこと思ってねェよ!」
「じゃあ、なに?」
「なんだよ?」
「眉間、皺寄ってるよ?」
...そんなつもりは、なかったんだけど。
なんでだ?
「いや、よかったな、両想いじゃねーか」
「え、そうなの?」
「確認取ったわけじゃねーけど、あいつは絶対お前のこと好きだろ」
「そ、そっかな!?」
「おー」
「...だと、いいなぁ」
そうやってまだ赤い頬を弛ませる。
...気に入らねぇ。
そう思った自分に驚いた。
いや、これは家族愛だ、よな?
万が一恋だとしても...不毛過ぎる。
「、」
「なに?」
そうして俺はこの感情に蓋をしたんだ。
「なんかあったら言えよ。
...俺はお前の味方だから」
「...うん!」
大事な、妹分。
(初出09/03/25)