見守る大人


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  「おい、

  ...寝たのか?」

  いつの間にか寝息を立てている

  安心したんだろうか。そう思ったら少し嬉しかった。

  ...でもこのままじゃ風邪ひくな。

  は制服のままだし(スカートが少し捲れてることに気付いてしまった。やべ、目に毒だ)春の玄関先はどんどん寒くなっていく。

  俺の背中にゆるくしがみついたままのの両手を首に回させて、足には俺のブレザーをかけてやってから、背中と膝の後ろに手をやり抱え上げ、


  「ただいまー

  って、あれ、元希?」

  「ばーちゃん!?」

  ようとした瞬間、まさかのばーちゃん帰宅。


  「元希、あんた何やってんの!?」


  この状況は極めてまずい。

  俺とは密着してるし俺はのこと抱き上げようとしてるし、ばーちゃんは日頃からとのことに対して俺に釘を刺してくる。




  『元希、あんたがどんなにが好きでも、父親同士がほとんど同じなんだから、ダメなんだからね』

  のことが好きなんて、誰にも言ったことなかったし、必死で抑えこんでたってのに、さすがと言うべきか。

  でも中学の時のばーちゃんのこの言葉がいつも頭を掠めるから、俺は足を踏み外さずにいられるってのもある。

  じゃねーけど、下手に手出して離れられるよりはいいのかもしれない。


  とりあえず今は誤解を解かなければ、

  「なんでもねェよ!

  こいつが泣き疲れて寝ちまったから、風邪ひかねェよーに部屋連れてこーと思っただけだ!」

  「本当に?」

  ばーちゃんはひどく訝しげな視線を投げ掛けてくる。

  「...本当だよ」

  そんなに信用ねェのか、俺は。



  「...、泣いたの」

  ばーちゃんはそう言うとの頭に手をやる。

  「...おー、泣きそうな顔してるくせに我慢するから無理やり泣かせた」

  「そうか、よかった。

  最近元気なさそうだったから、心配してたのよ」

  頭を撫でられても身動ぎすらしない。もしかしたらあんまり眠れてなかったのかもな。



  「...元希、」

  「なんだよ?」

  「色々言ったけど、は元希のこと頼りにしてるみたいだから、これからも面倒みてやってあげてね」


  には母さんが居ない。

  を産んだと同時に亡くなって、それで父子家庭じゃ大変だからと、元々は仕事に通いやすい東京に暮らしてた俺の親父の双子の兄であるの父さんは、

  を連れて実家に戻ったのだそうだ。(今は頑張ってここから通ってるらしいけど、朝早くて夜遅くて忙しそう)

  その頃はじーちゃんも居て(5年くらい前に亡くなった)じーちゃんとばーちゃんはをそりゃもう可愛がってた。(初孫のはずのうちの姉貴よりも)

  それは今でも変わらなくて、のことになるとばーちゃんは目の色が変わる。

  ...でも、それは俺も、なのかもな。


  「...そのつもりだけど」

  下心が無いとは言いきれないけど、大事なのは変わんねぇ。

  「じゃ、ちゃんと寝かしてきてあげてね」

  タカヤは、どうなんだろうか。

  「りょーかい、...んしょ」

  もう一度、抱え直して立ち上がる。

  「あ、変なことしちゃだめよ!?」

  「しねェよ!」

  ...ちくしょうめ。








 (初出09/03/25)


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